「えっ、調査するだけが探偵?
とんでもありません! 探偵の世界にもいろいろあるのです。
ここでは、一般的にはあまり知られていないちょっと変わった探偵の世界をご紹介します。」


第07話  『姿無きストーカー篇 −後編−』  原作:サダ・マサシ

依頼者を調べて出て来た事実。それは、夫とは死別していなかった事が一つ。娘は夫との子ではなく、愛人との間に出来た子供であった事が一つ。娘は結婚していなかった事が一つ、であった。依頼者は、約3年前に夫に全てがばれて離婚した。結婚前から別の男がいて、その男と続いていたのである。夫との間に子供は無く、愛人との間の子供を実子と偽って育てていたらしい。恐らく、結婚は親の意向に沿わなければならず、已むを得ず見合いで夫婦になったのであろう。

相手の男性は相当の地位にいる人間ではあったが、やはり政略結婚の犠牲になったようで、別の女性と結婚していた。依頼者とこの男性の恋愛は公に成就することなく、地下に潜って行ったのである。少しでも二人が共に生きた証が欲しい、この気持ちが娘を誕生させた。家柄に縛られていた二人は会うことも儘ならず、気持ちだけが募っていく。それでも、何とか逢瀬を重ねて愛を確かめてきた。5年前、この男性が癌の告知を受け、1年前に亡くなっている。この闘病の時期に、依頼者の生活パターンが変わった。もちろん看病のためであるし、居ても立ってもいられなかったのだろう。当然、相手の奥さんの目を盗まなければならず、さぞかし苦労したことと思う。しかし、こんなことを繰り返していれば、夫にばれるのも時間の問題であった。夫に問い詰められた依頼者は全てを告白した。離婚に至るまでそう時間はかからなかった。水商売をしていた娘も、事の経緯を理解し実母に同情し共感した。娘にも真剣に愛している男が居たから、余計に依頼者の気持ちがわかったのであろう。

被害者は、今迄踊らされていた夫である。その気持ちは察するに余りある。その反面、ストーカーに成り得る素養が十二分にあることも否めない。積年の怨念が噴出してもおかしくないのである。

一連の嫌がらせ行為は、この別れた夫ではないだろうかという疑いが出て来た。ところが、この夫の現住所は依頼者の住所からは相当の遠隔地で、嫌がらせの為に日参するには無理がある。では、誰かにやらせているのか。考えられる事ではあるが、それでは何故、調査に入ったとたんに何も起きなくなったのであろう。情報がリークしているのか。私はあらゆる事を考えめぐらしたが、どれも決め手にはならなかった。

情報リークの可能性を、依頼者の娘に向けてみた。娘が付き合っている男は無職であった。半同棲状態で、いわゆるヒモである。水商売に入ったのもその関係であるようだ。しかし、お決まりのようにこのヒモはギャンブル好きであった為、娘が稼いだ金は右から左に流れた。このような状況であるから、毎日の生活に追われる日々で、情報どうのこうのと言っているようなことは無かった。実はこの娘の状況が、依頼者に影響を与えていたのである。 

とりあえず、そういった諸々の情報を頭に入れつつ、再度1週間張り込みに入った。想像通り何も変化は無かった。しかし、依頼者は喜んでいた。また安心して眠れたと。私は、依頼者を疑うのはモットーに反するし嫌であったので、聞こうかどうしようか迷っていた。しかし、ここまで考えが煮詰まってくると、それしかないという勘が働き、事実を明らかにすることが正解と判断した。それに、黙ってこのまま長期の調査料金を頂くことは、自分としても許せなかったのである。

「嫌がらせ行為は自作自演ではないですか?」私は、口を開いた。その時、依頼者の一瞬の動揺を私は見逃さなかった。しばらくは、そんなことあるわけない、何を言うんですか、という感じであったが、私が入手した情報を聞かせると、依頼者は嗚咽を漏らし泣き出してしまった。

どれくらい時間が経ったであろう、私は黙ったままで何も言えなかった。そして、依頼者は事の顛末をしゃべりだした。愛する人と死別し、夫とは離婚して、どうしようもなく寂しかった。夫への罪悪感もあり、自分の存在価値さえ疑っていた。そんな時、娘がOLから水商売に鞍替えし、惚れた男に入れ込んで家に寄り付かなくなり、来たと思えば金の無心で、寂しさは募るばかりであった。愛に生きてきた人生から、その愛を失くした今は生ける屍であった。そんな人生だったから、人並みの趣味や人付き合いなど皆無で、寂しさを紛らわす術を知らなかったのである。とりあえず、寂しさを埋める為に、唯一の宝である娘の窮状を救うべく、いろいろ説教をしたことが間違いであった。

娘は反発し、断絶状態になってしまった。窮地に追い込まれた依頼者は、為す術を失くした。そこから出てきた発想が、周囲の関心を集めることであった。嫌がらせを受けている被害者だということを回りに認識させることに執着したのである。案の定、娘はいろいろ心配してくれている。親子関係も修復されつつある。近所の人も心配してくれて、思わぬことから近所付き合いが出来るようになった。そして、娘が調査依頼の提案をしたのである。そうすれば、安心材料が増えるし犯人も捕まえる事が出来るかもしれないと言うのである。私は、全てを理解し納得した。この事は二人だけの秘密にし、調査は完了したことを娘に報告した。娘は大喜びであった。私は釘を刺しておいた。おかあさんを大事にしてくださいと。私も必然的に茶飲み友達の一人になった。

寂しさというのは、男と女では深さが違う事がよくわかった。男が、それくらいと思うことが、女にはとても重要なのである。そして、この寂しさが女性が起こす犯罪の源流になっているような気がする。この依頼者の様に、愛に生きている人間はどのくらいいるのだろうか。私の愛は本物だろうか。


UP DATE:2002/10
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