「えっ、調査するだけが探偵?
とんでもありません! 探偵の世界にもいろいろあるのです。
ここでは、一般的にはあまり知られていないちょっと変わった探偵の世界をご紹介します。」


第11話  『行方調査・やるせない篇 −後編−』  原作:大杉具多

 いよいよ調査開始。調査は数名で並行して多角的に進める。
 私が担当した調査は単純といえた。それが楽な作業かどうかは別にして、同じことの繰り返しなのだ。
 まずはネット上にある、いわゆる「尋ね人サイト」に登録。ここからの解決は期待していなかったが、今回のような案件では低い可能性にもかけるしかない。やる価値はあるだろう。

 次にパソコンを使い、ビラの作成に取りかかった。依頼者から提供された対象者の顔写真をスキャナーで取り込み、その他の諸情報と共に記載しビラとする。ビラが出来たらNTTの電話帳、インターネット、カーナビから対象者の住む街にあるパチンコ店全店の所在地と電話番号を調べあげリスト化した。市内に五十店舗ほどあった。そのリストを頼りに一店一店廻る。この市にあるパチンコ店全ての巡回が終わったら、また次の市へと移り、同様のことを行う。正直、これから行う調査のことを思うと気が遠くなる。
 
 各パチンコ店内を巡回し、対象者らしき人物がいないかどうかの確認をした後、店の責任者に事情を説明し調査協力を要請する。これが一番気疲れするところでもある。
※今更ではあるが、私は対人間との会話よりは苦手でありまして、尾行調査などといったコッソリとした調査の方をどちらかというと好むのです……。
 本来、探偵が自ら身分を明かすことはほとんどないが、今回のような行方調査は例外的に堂々と探偵と名乗ることができるからまだやり易いといえた。
 私自身はパチンコを全くやらないため、普段はパチンコ店に入ることはほとんどなかった。客の人数は店によってマチマチだったが、平日の昼間とすると割といるものだなと思った。あたりまえだが店内は非常にうるさい。大声で店員に話しかけ、ビラを渡して協力を頼む。

 パチンコ店廻りをする合間に別のスタッフが陸運局へ行った。目的は現在登録証明の取得。
 依頼者から「失踪時に乗って行った車の車検が先日で満了になったはず」との連絡が入ったからである。車検の更新、或いは廃車としたかの確認を取るためだ。どちらかを行っているのであれば、その線からの調査を取っ掛かりとすることができるからである。ただ、対象者は所持金がほとんどないと思われ、期待は持てなかった。そして案の定、この方向性も潰れることとなった。同時に私の口から溜息が洩れた。こうなっては現時点で最も頼りなのは、パチンコ店からもたらされる情報だった。

 平日は主にパチンコ店を廻り、土日には競馬場へも調査に赴いた。府中にある東京競馬場である。ここでの調査も雲を掴むような調査だった。東京競馬場には出入り口のゲートが3ヶ所ある。地理的なことを考慮し、対象者が最も使う可能性が高いと予想されるゲートに的を絞り、開門から閉門までの間、通行人の監視を続けた。第1レースから最終レースまでは6時間以上になる。とにかく忍耐力が要る。時間が経つのがとてつもなく遅く感じた。時計を見るとさっきからまだ十分しか経っていない。三十分以上は経っていると思っていたのに……。使い捨てカイロを弄るも、この日は風が強く寒い! つらい! まいった! ウォークマンのMDが何周したであろう、ようやく最終レースが終わり、大量の客たちがどっとゲートを通過して行く。しかし、やはりここでも対象者を発見するには至らなかった。せめてもう少し捜索範囲をしぼりこめたら……。現時点では都内にいるのかさえ判らないのである。

 そんな時に一本の電話が入った。協力を要請していたパチンコ店からだ。ビラの写真と似ている人物がいま、店にいるという。なんたることだ! 私はすぐさま、そのパチンコ店へと向った。本人であるかどうかは疑わしかったが、なんとしても確認を取りたい。
 30分ほどで店に到着した。店員に案内され、まずは遠目から確認する。確かに似ている。特徴は一致していた。が、年齢が少し上のように感じる。もう少し近くで確認をとる必要があるなと思い、対象の人物の後をさりげなく通りながら確認した。
(うっ、違う…。)
 そんな簡単に見つかるものではないとは解っていたが……。
 店員に礼を言うと、私は肩を落として店を後にした。

 依頼者宅には週に二、三回の調査経過報告の連絡を入れていた。依頼者は皆例外なく調査が終わるまで常に不安であり、調査経過を知りたがっているものである。だからこまめに連絡を入れた。ただ、私たちが電話をすると依頼者側は失踪人が見つかったのかと思うらしく、それが違うと解るととても残念そうになる。受話器越しに読み取れるのだ。そういう意味では依頼者に電話するのが少し忍びない時もあった。

 依頼を受けてから半月が経過した。すでに二つの市のパチンコ店すべての巡回をし終えていて(そのうち9割の店にビラを配布し、協力を要請していた)、次に取り掛かろうとしていた三つ目の市は、対象者と家族が以前に住んでいたこともある市だった。

 そんな時に電話が入った。今度はパチンコ店ではなく、依頼者からだった。調査経過の報告は昨日入れたばかりだった。なんだろう。私は依頼者にどんなことでも構わないから、対象者に関することで何か思い出したことがあったら教えて欲しいと頼んでいたから、そのことについての電話かと最初は思った。しかし、依頼者の口から出た言葉はそんなことではなかった。
「昨夜、息子が帰ってきました」
「え?」
 所持金はすでに尽き、失踪人は自ら戻ってきたというわけだ。ありえることだとは思っていたが。
「そうですか、良かったですね」と、依頼者に言うが複雑な気持ちだった。もちろん本心ではあったけれど、やはり自分たちで捜し出したいという想いがあった。

 電話の向こうの依頼人(ご両親)はとても嬉しそうだった。結果的に解決に至ったのだから良かったのだろう。そう思うことにするが、どこかすっきりしなかった。
 私は最後に依頼人に聞いた。
「息子さんはいったいどこにおられたのですか?」
「知り合いのところにいたそうです」
 場所は都内ではなく、対象者とは縁のない土地であった。その知り合いというのも、両親の知らない人物であった。
「それからですね、息子は数年前からパチンコはやめていたらしいです。昔は毎週のように行っていましたから、まさかやめているなんて思いもしませんでしたよ」
「そうだったんですか……」このことには驚いた。
 依頼者は嬉しそうな声で続けた。「だからパチンコ店じゃあ、見つかるはずなかったんです」
「ハハ……、ホントですね。なかなか難しいものです。今度からはもっと話をして、もう少し息子さんのことを知っておいた方がいいかもしれませんね」
「はい。ありがとうございました。お世話になりました」

 こうして今回の調査は終わった。
 その後は、今まで協力要請に廻った各パチンコ店に「ビラ」の説明及び回収作業で、また気が遠くなるような仕事に取り掛かった次第であった。
 結果として、私が廻った八十件近いパチンコ店での調査はムダであったともいえる。行方調査は情報が重要になる。間違った情報は時として今回のような結果を招いてしまう。だから私たちは、依頼者から提供される情報のすべてを鵜呑みにしてはいけない。
 んー、それにしてもやるせなかった。かたちはどうであれ、解決はしたのに……。


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