「えっ、調査するだけが探偵?
とんでもありません! 探偵の世界にもいろいろあるのです。
ここでは、一般的にはあまり知られていないちょっと変わった探偵の世界をご紹介します。」


第12話『ホントに“まいった”疲労困憊ハードな1日篇 −完結編−』原作:大杉具多


 ようやく対象者が居酒屋から出てきた。二人共、相当酔っている様子だ。それもそのはず、我々は4時間もの間ここで監視していたのである。酔っていれば注意力は散漫になる。尾行するには好都合だった。

 時刻はすでに終電の時間。二人はこれからどこへ向うのか。対象者の自宅に帰るにはもう電車がなかったので、女性の自宅に行くと思われた。それも、そんなに遠い場所ではないはずだ。私は電車で二人にぴったりついての尾行、K先輩は私と携帯で連絡を取りつつ、車で追いかけてくるかたちだ。

 対象者二人は周囲を気にする様子もなく、電車を乗り継ぎ、数駅先の都内某駅で下車した。この駅は都心でも下町に位置していて、時間が遅いということもあるのだろうが、駅構内に人気がまるでないところだった。裏をかえせば尾行がしやすい場所ではないのだ。このような場所では十分な距離を保ってつけないと怪しまれてしまう。それでいて見失うわけにも行かないので、相手が角を曲ったらすぐに走るなどの緩急が必要になってくる。

 対象者二人は歩き慣れている地元の小道をどんどん進んで行く。近道であろう裏道は、よそ者からしてみればまるで迷路のように感じるような所だった。細くて狭い路地を何度も曲り、急な勾配の坂と階段を下って行く。
  ※東京の、ましてや都心に近い場所に、こんな所が存在するとは知らなかっ
   た。それほどわかりづらい場所だったのです。それに加えて重い荷物(暗
   視カメラなど)を携えての尾行で疲れきった足元はもつれるようにふらふ
   らな状況下であり、今までの経験上における徒歩の追跡で最も辛く感じた。
   正直なところ、もうこりごりだと思っていたが、今はなんとかやり遂げな
   ければならない。尾行しながらもこのような様々な思いが頭をめぐってい
   たのでした。

 しかも今は深夜の夜道。人通りも全くといっていいほどなかったので、革靴の足音を極力立てるわけにはいかない。また、いつ後ろを振り返られはしないかと気が気でなかった。
  ※この時、後ろを振り返られたら私は完全に怪しいストーカーと思われたで
   あろう。オフィス街では迷彩だったスーツ姿もここでは不自然に浮いてい
   た。更には長時間の調査で、体力的にも精神的にも底を尽きかけていた私
   は、対象者を見失わないように尾行をするだけで精一杯で、これまで通っ
   てきた道順などを憶えている余裕はなかった。あとでインターネットでも
   なんでも使って調べれば済むことだったからだ。しかし、迷路のようなこ
   の場所にとっては、このことがあとになって悲劇を生むことになるのだっ
   た。

 駅から30分。複雑な道程を経て、ついに対象者二人が一軒の家へと入ったのを確認した。おそらく女性の自宅であろう。これで浮気の証拠及び相手の名前と住所も判明し、依頼者の望む調査目的の全てを達成したことになる。
 この調査は5日間の契約であったが、初日の1日ですべての目的が判明するという結果になった。このように順調に行くことは稀で、運も良かったのだが、5日分のことを1日でやったわけだから、その分とても疲れたのはいうまでもない。しかし、過酷な調査はようやく終わったのだ。私は安堵した。さあ、帰ろう。ラーメンが食べたい。

 当然ながら電車はもうないので、近くまで車で来ているはずのK先輩に携帯電話から連絡を入れ、ここまで来てくれるように伝えた。しかし、そこは車で入って来られるような場所ではないらしく、K先輩は「道が狭い上に判りにくいから、そっちに行くのは無理だから、こっちまで来てくれる?」との回答。
 ええー!?
 私自身も、いま自分のいる場所をよく把握できていないので、K先輩のその言葉に困惑した。たしかに、車の入って来られるような場所ではなかったが……。
 仕方がないので「わかりました。何とかそちらに向ってみます。どの辺りにいます?」と訊いた時だった。
 プープープー……。そろそろだと思っていた携帯のバッテリーが底を尽いた。20時間以上に渡って、頻繁にやりとりをしていたのだ。バッテリーもなくなるというもの。

 それからの私は、K先輩を探すべく歩き廻った。追い討ちをかけるように雨が降ってきた。さらに酷いことには、長距離の尾行でガタがきたのか、長年愛用している革靴の底がはがれ、つま先がぱっくりとまるで蛇の口のようにパカパカ音を立て、雨水が靴下へと染み始めていた……。最悪だ。泣きっ面に蜂とはまさにこのことだと私は思った。
 しかし、闇雲に動き廻ったところで見つかるはずもないのだ。私は、ずぶ濡れになりながらも何とか公衆電話を探し、そこからK先輩の携帯に電話を入れた。そして、二人が共通して何とかわかりそうな場所で待ち合わせ、ようやく会うことができた。

 時間を確認すると午前4時だった。私とK先輩は下町の迷路の中を2時間近くもさ迷っていたことになる。そして、丸一日通しての調査となった。連続24時間である。とても疲れた。足が痛い。腹も減った。眠い。しかし、それだけではなかった。心地良い安堵感と達成感もあった。たまにならば今回のようにハードな調査もいいだろう。私はそう思った。
 そして私たちは事務所への帰途についたのだった。到着する頃には東の空は明るくなり始めていた。

 これは後になってわかったことですが、私が路地の迷路にはまり、今どこにいるかもわからず困っていた時に、実はK先輩は腹痛によりトイレを探していて、尚も、疲れたからとの理由で仮眠をとっていたことを、事実を追究した結果本人の口からわかったのです。
 このことに対して「そりゃーあんまりだ」などの言葉が事務所の同僚スタッフからも口々に発せられた。K先輩は現場には不向きだと前々から聞いていたが、私もその意味を理解した。

 間違っても口にはできませんが、K先輩は現場の調査においては"役立たず"であると私は心の中で思うのでした。しかし、行動調査の際にペア組んでいるので、先が思いやられます。
 と、色々とK先輩のことも書きましたが、結果的には成功をおさめたわけで、意外に良いコンビなのかもしれません……。と思うことにします。

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